celestaria* blog

企画関連のことや日常生活等、とりあえず何でもアリのブログ。
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花咲くところに降り立つ鳥-1-04

2008.12.27 Saturday 23:22
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    番外編、花咲くところに降り立つ鳥


    「終わった?」
     ぴょこっと襖から顔を出した結は、先程までの格好とはまるで違った、いかにも姫君であるという格好をしていた。
     葵は此れまでお金に苦労はしなかったものの質素な生活をしており、貴族が着ているような服装にも興味が無かった為、結が着ているものが所謂何であるのかが全く分からなかったが、ただ心から綺麗だと思った。
    「貴女も人が悪い。大臣様の娘であるならそうとおっしゃって頂かないと」
    「・・・・だって、私が大臣の娘だっていうこと前提にしたら、何か下心とか抱かれそうで怖かったんだもの。大臣の娘だって知ってもあなたはそういうこと無さそうだから、話し相手をお願いしたの」
    「姫君の見込み違いということもあるでしょう?」
    「あら、私。こと人を見る目に関しては、今まで外れたことがないのよ。此の人はこういう人だなっていうの、都のお邸でも結構するんだけど、百発百中だったわ」
     葵は、驚きと同時に呆れ返った。
     確かに葵は、南地区へ入って守るべき存在が見つかればとは思っていたが、特に要人に取り入ろうとか思っていた訳ではなく、自分の身分や立場を弁えていたから、主に出て行けと言われたら素直にそうするつもりでいた。
     色んな土地を廻っていて、都の大臣様の有能さを噂程度に聞いてはいたが、娘にも其の素質が充分にあったようだ。此の親にして此の子あり、の一例と言っても過言ではない。
    「ねぇ、其れよりも。私のこと“姫君”なんて呼んじゃ嫌。さっきまでみたく名前で呼んで」
    「いえ、しかしですね。私は・・・」
    「邸の中で名前を呼んでくれるの、お父様だけなんだもの。あとは“姫君”とか“姫様”とか、私という存在を軽く扱われているような呼び方は、自分の名前を忘れてしまいそうで嫌なの」
    「・・・・・・・・・・・」
     結が言った言葉は、幼さを感じさせないしっかりとしたもので、葵は、此の子は自分を大切に出来る子だなと思った。
     守るべき存在の、場合によっては命の代わりにならなければいけない守り人に生まれた葵にとって、自分を大切に出来る人間は貴重だった。
     葵は一つ溜息を吐くと、少しだけ項垂れていた結の頭を軽くぽん、と叩いた。
    「分かりました。但し二人の時だけですよ。大臣様や、邸にいらっしゃる方々の前では“姫君”と呼ばせて頂きますから其のおつもりで。宜しいですか?」
    「うん!」
     私を此処へ連れてきたのはもしかしたら自分を見失うことが無いようにする為の身近な存在が欲しかったからかもしれないと葵は思った。それ程に、結は嬉しそうな表情をしていたから。
    「さて、何処でお話ししましょうか、結様」
    「あ、えーっとね、今日は天気がいいから日当たりのいいところ!」
     立ち上がった葵の腕を、こっち、こっち、とぐいぐい引っ張っていく結の姿は先程までの大人びた雰囲気とは打って変わった子どもらしいものだった。
     其の時葵は初めて、ほんの微かなものだったが、自分の守るべき存在はこういう子なんだろうなという思いを胸に抱いた。
     作られた道に沿って歩いてきただけの葵には、結のように、自分というものを確かに持っていて、且つ自分を大切にしている存在こそ、守るべき存在だと思えたから。

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    花咲くところに降り立つ鳥-1-03

    2008.11.09 Sunday 22:42
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      番外編、花咲くところに降り立つ鳥


      「はぁ・・・・」
       邸の一室へ通された葵は、部屋へ入って何度目か分からない溜息を吐いた。
       此れまで彼女が過ごしてきた一番大きな部屋は郷の長の家にあった修行部屋で、此処は其の修行部屋の倍は軽くある広さだ。
       だが、葵が溜息を吐いている理由は部屋が広すぎて落ち着かないだけではない。
       閉じられた襖の向こうから感じる、複数のあからさまな敵意と殺気。何かしようものなら容赦しないという、そういった雰囲気だった。
       今まで葵が確認出来た護衛と思われる男たちの中に、彼女をどうにか出来る相手は一人もいなかったが、表向きは客人としてもてなされている以上下手なことは出来ない。
       とりあえず邸の主に挨拶をせねばと、会わせて貰えるように結を迎えに来た男の一人に頼んだのだが、邸に着いてから其の大きさに衝撃を受け、面会を頼んだことを後悔した。
      ――困ったな・・・
       何にしても挨拶をすると言った以上、此の場は離れられない。更にもう一つ溜息を吐いたところで漸く襖が開き、主と思われる人物が入ってきた。
      「・・・・・・・!」
       葵は目を見開いた。主と思われる人物にではなく、其の後ろについてきた一人の男に。
       知り合いではない。会ったこともない。葵が一方的に知っているだけだ。
       郷で神童と呼ばれた、顔も絵でだが残っていて、彼が郷にいた頃を知らない者でも知っている人物。
      「どうか、されましたかな・・・?」
       主の声が響いて、葵ははっと我に返る。そして慌てて頭を下げた。
      「失礼致しました。私は葵と申します。本日は私のような者を邸に上げてくださり、誠にありがとうございます」
      「いや、こちらこそ娘が無理を言ったようで申し訳ない」
       顔を上げるように言われ、ゆっくりと上げる。姿勢を正したところで、葵は改めて主の顔とついてきた男の顔を見た。
      「私は來幸と申す。都で大臣を務めている者だ」
      「・・・・・・・・」
      「・・ん? どうかされたか?」
      「あ、いえ。・・姫君の雰囲気に似ているな、と思っただけでございます」
       何言っているんだ私は、と口に出た言葉に後悔を覚えた。
       思ったことを其の侭口にしたとは言え、相手によっては不快に思うこともあるかもしれないし、加えて初対面の相手だ。しかし葵が思った其の侭の人柄だった來幸は、葵の発言を気にしてはいないようで、逆にとても気を良くしたようだった。
      「ところで、葵。通りで娘に捉まったそうだが、そなた、此の町の者か?」
      「いいえ、半年程旅をしておりまして、此の土地も明日には出ようと考えていたところです」
      「急ぎのところを、娘が迷惑かけたという訳ではないのですかな?」
      「特に急ぎの旅という訳ではございません。急ぎであれば、此処へ来る前にお断りしておりました」
       尤も否と答えられる状況ではなかったが。
      「そうか。娘に退屈な思いをさせていると思っていたところでな。そなたさえ良いのであれば、私たちが都に帰るまでの間、娘の話し相手として邸に留まれるように手配しよう」
      「謹んでお受け致します」
       葵は表情を引き締め、再び來幸に向かって頭を下げた。
      「では、部屋を用意せねばならんな。翌桧よ、女房頭に部屋を用意させよ。あ、其れから部屋は結の部屋の近くにしておいてくれ」
      「畏まりました。では、早速」
       翌桧と呼ばれた男は、主の命を遂行すべく一足先に退室した。しかし退室したのは分身のほうであったようで、本体の気配は室内に残っていたが。
       其の後、一言二言話し、來幸も仕事があるからと葵を部屋に残し退室していった。其れで漸く葵に向けられていた鋭い視線も無くなり、葵が身体の中の空気を全部吐き出すような深い溜息を吐いたのは、其れから直ぐのことだった。

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      花咲くところに降り立つ鳥-1-02

      2008.10.13 Monday 21:11
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        番外編、花咲くところに降り立つ鳥


         結が葵を連れて入っていったのは南地区。地区の境界にいる兵士に“私の連れだから”と一言断っただけですんなりと通れた。
         此の南地区へ其れだけで入っていけるのだから、此の少女がやんごとなき身分のお姫様ということを想像させる。其れにしては護衛らしき人物がいない。
         謎だらけの少女は葵の思惑など露知らず、手に入れた話し相手が嬉しいのか笑みを絶やさずに隣を歩く。
         こうして隣にいるとお姫様という感じがしないのは、彼女がとても柔らかな雰囲気の持ち主であるせいだろう。
         今まで親しい間柄の人間を傍に置かなかった葵でも和んでしまう程、結の雰囲気は柔らかかった。
         暫く南地区の大通りを歩いていると、正面から男が数人、こちらに向かって近づいてきた。
         どうやら彼らの目的は葵の横を歩く彼女のようだ。
        「姫様!」
        「おい、いらっしゃったぞ!こっちだ、こっち」
         彼らが探していた当の本人は見つかっちゃったぁという顔をして、其れでも焦っている様子はない。
         どうやら自分の話し相手を見つける為だけに護衛をつけずに南地区を出てきたようだ。
        「姫様、どちらへ行かれていたのですか!」
        「お願いですから何も言わずに邸を出ていくのはお止めください」
         息を切らして、本当に焦っていたという様子が見て取れる。
         場にいた男の一人が共にいた葵に気付いて、あからさまな嫌悪の目を見せた。
         幼い頃から守り人としての鍛錬を積んでいた葵が其の視線に気付かない筈はなく、其れでも結の話し相手になるという約束を違える訳にはいかないと、あえて気付かないふりをした。
        「姫様、其処におられる方は?」
         口調は飽く迄丁寧にという訳ね、と気付かれないように葵は小さく溜息を吐くと、男たちに向かって軽くお辞儀をした。
        「私の話し相手をお願いしたのよ。邸へ連れて行くわ」
        「話し相手なら邸内に幾らでもおりますでしょうに・・・」
         遠回しに得体の知れない者を邸に入れる訳にはいかないと言っているのは明らかで、結は顔を歪ませた。
         葵はというと、元々南地区に入られる身分ではないことは自覚しているので、出て行けと言われたら何も言わずに出て行こうと思っていた為、特に表情に変わりはない。
        「堅苦しい話ばかりだし、私が何か話しても相槌を打ってくるだけだし、邸にいる者じゃ話し相手にならないから探しに外へ出たのよ? 葵を帰そうものなら邸へは帰らないわ」
         頑として自分の意見を通そうとする結に、此れ以上何を言っても諦めないと悟ったのか男たちも遂に折れた。
         葵は居心地に悪さを少なからず感じていたが、とりあえずついて行くことにした。約束云々以前に結が葵の腕を離そうとしなかったことも理由の一つだったが。

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        花咲くところに降り立つ鳥-1-01

        2008.09.24 Wednesday 19:00
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          番外編、花咲くところに降り立つ鳥



           秋ももう深く、陽の当たらないところは冷える。
           葵は茶屋で、川に沿って植えられた紅葉を見ながら、一人物思いに耽っていた。
           そろそろ守るべき存在を決めてもいい頃だと、長から郷を出る許可を得たものの、やはり簡単には見つからない。
           郷を出る許可を得た他の守り人たちはどのように守るべき存在を見つけたのか、なんて教えて貰える筈もなく、郷を出てからは当てのない旅。人がいるところを中心にうろついていれば其の内見つかるだろうという安易な考えはとうに捨ててしまっていた。・・が、やはり人が沢山往来しているところのほうが見つかる可能性は高いというもので。
           物思いに耽っていて見つかればいいが、そうそう都合のいいようには出来ていない。
           残っていたお茶をずずっと一気に飲み干して、座っていた場所に勘定を置いて茶屋を出た。
          「そろそろ此の街も潮時かな」
           もう七日も此の街に滞在し、一部を除く隅々まで捜し歩いた。
           旅人も多く往来する土地だと聞いたので此の街に来たのだが、滞在して七日目になる今日まで、守るべき存在は見つからなかった。
           どうやって守るべき存在を見つけるかなど教えて貰えず、ただ直感で探せなどと、どれだけの人間が存在するか分からない此の世界では途方もない。
           要人に付く守り人が多いと聞くが、必ず要人が守るべき存在になるのかと言えばそうではなく、外で色恋を知って、家族を守る者となった守り人も少なからず居ると言う。
           せめて自分がどちらの部類かだけでも分かれば探すところも違ってくるのに、と思ったこともあったが、何を思っても自分の守るべき存在が見つからなければ意味が無いので、根強くは残らなかった。
          「そう言えば、南の地区は調べていなかったな」
           此の土地の南地区は要人たちの住居が割合を多く占める。
           今まで調べなかったのは、南地区へは許された者しか入れないという規則があり、此の土地に来てから間もない者が入れるようなところでは無かったのだ。
           守り人の術を使えば入り込めなくもないが、同業者がいる可能性の高い要人が多くいる場所で術を行使すれば、誤解を招く可能性もあると調べる対象から除外していた。
          「どうしたものか・・・」
          「何が?」
           間を入れずに葵の言葉に応えた言葉は、彼女の思考を止めるには充分だった。
           声の主は、往来で立ち止まって考え込む葵の正面にいて、顔を覗き込む形になっていた。
          「ねぇ、考え込むのは貴女の勝手だけど、往来で立ち止まって貰うと通行の邪魔になるよ」
          「あ、ああ・・、すみません」
          「私に謝って貰っても困るんだけどな」
           それなりに良い生地を使った着物を着ている少女は、屈託の無い笑みを葵へ向けていた。
          「ねぇお姉ちゃん、今、時間ある?」
          「は?」
          「あったら私の話し相手になってくれない? お父様について来たんだけど、難しい話ばかりしてるし、同い年くらいの子はいないしで、話し相手を探してたの」
           ね、とやはり笑みを浮かべて葵には有無を言わさず、という雰囲気を出している。
           得体の知れない相手について行くのはどうかと思われるが、仮に少女が何処か良家の姫君であるなら此処で断るのは得策ではない。
           葵は暫く思考を巡らせ、結局ついて行くことに決めた。
          「話す前に名前」
          「え?」
          「何処の誰だか分からない相手の話し相手になるつもりはないよ。私は葵」
           ちょっと言い方が冷たすぎたかなと少しの後悔があったが、何の心配も無かったようで、少女は其の笑顔を絶やさずに明るい声で言った。
          「結よ」

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          揺るがぬ願い 空に放てば

          2008.07.07 Monday 20:55
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            番外編、 揺るがぬ願い 空へ放てば


             徐々に青から橙へ変わり始めている空を見ながら、李羽は一つ溜息を吐いた。
            ――今夜、晴れるかな・・・・
             紅華の大樹の元で月白との儀式を終え、月へは行けなかったものの、無事に次代へと繋ぐことが出来た。
             完全に紅華の大樹に取り込まれて消える筈だった李羽と月白の魂は、白李を生むための欠片を除き、一年のみ、こうして紅華の大樹に幽体として留まることを許されたのだ。
             弱かった身体のせいでろくに外へ出られなかった為普段から空をじっくり見ることが無く、でも毎年七夕の日にはいつも天気を気にしていた。
             一年に一度しか会うことを許されない織姫と彦星。
             境遇や状況はまるで違うものの、李羽自身も月白との儀式を終えるまで生きられなかったら、こうして月白と一緒にいられなくて、ひょっとしたら織姫と彦星より酷い状況になるところだった。
             此処近年、七夕の日は曇りだったり雨が降っていたりで、晴れた日が無かったから今年は晴れて欲しいと思っていた。
            「・・・う、李羽?」
            「・・え、あ、ごめんね。何だった?」
             李羽に対して何かを言っていたのだろう。
             横で李羽を心配そうに見ていた。
            「今朝からずっとぼーっとしてるね。どうしたの?」
            「うん、あのね・・・」
             恐らく知らないであろう月白に、昔自分の母親から聞いた七夕の話を言って聞かせた。
            「・・・そっか、一年に一度しか会えないんだ・・」
            「うん。・・まぁ、此処じゃなくて別のところで晴れてたら織姫と彦星は会えるんだけどね。晴れてなきゃ笹の葉に書いた願い事が届かないからって、前日に晴れてくださいって皆でお願いするのよ」
            「それじゃあ今夜は晴れたほうがいいんだね?」
             そうよ、と笑みを浮かべながら答えた。
             空はまだ晴れている。
             此の侭天気が晴れたままなら其のほうがいいが、此の時期は天気が変わりやすい。
             どうか此の侭晴れていますようにと、李羽は空を見上げながら願った。


             李羽の願いが届いたのか夜になると空には無数の星が輝いていた。
            「良かったね、李羽・・」
            「うん」
             満面の笑みで答えた李羽につられて月白も思わず笑みを浮かべた。
            「其れで?」
            「ん?」
            「何かお願いがあったんじゃないの?」
             うん、と笑みを浮かべたまま返事をして、儀式をした後ならやっぱり此れだよと空に向かって願いを発した。

            「どうか、五百年後の紅華の姫と風月の精が無事に月へ行けますように。白李が無事に使命を全う出来ますように・・・」

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